街路樹の根

「どうしてこうなるの・・・」



エジプトの話・・・

・・・石を切り出すとき木の楔(くさび)に水をかけて膨張させて、その圧力で岩石を割る・・・などと現地ガイドのサラームは、自分が引率している日本からの観光客相手に喋っていた。

けれどもこの一行の中でこの男は
「そんなことある訳ない」・と鼻先に笑みを浮かべて聞いていた。

・・・だって硬い石とやわらかい木と比べてみりゃ解るじゃない・・・
・・・いくら木が膨張したって、柔らかい木が硬い石を押しのけるわけが無い・・・というのが彼の持論であったからだ。

この場所は、サラームが、どの団体の時もいつも得意になって喋っている場所の一つである。


「写真横たわるオベリスク」

街路樹の根




観光客はこの横たわる巨大なモニュメントの原石を眺めながら
「出来上がっていれば、1200トン・・・〈未完のオベリスク〉・・・」というサラームの説明が、正しいのか間違っているのかなど関係なく、ただ
「ふーん、凄いね」という会話の中にいた。





件(くだん)の男はこのとき、前日見てきた《カルナック神殿のオベリスク》を頭に描いていた。

街路樹の根




「完成していたら、こういう形になっていたであろうな・・・」






男は花崗岩の岩肌に、無数の楔(くさび)の痕(あと)見つけた。


「写真石切り場」

街路樹の根




楔を入れた後が歴然と確認できた時、男の頭の中に別の男が入り込んだ。





「この楔(くさび)の痕(あと)は何で彫ったのか・・・」
「まさか、木の鑿(のみ)で彫った・・・いやそれは無いだろう」
「石よりやわらかい木で、木より硬い石を彫れるわけが無い・・・」
「絶対、この石より硬い石か、金属の鑿(のみ)が使われたに違いないのだ・・・」
「金属の鑿(のみ)が有った・と考えたい・・・」
「ではなぜ、楔(くさび)が金属でなくて木なのだ・・・」
「この岩を掘るのにいったい何年必要としたのか・・・」
「この〈未完のオベリスク〉の鋭利に彫られている周囲の状況を見たとき、どうしても木を連想することは出来ない・・・」

男は、頭の中の、別の男に翻弄(ほんろう)されていた。





あれから、9年という時が過ぎた。
男が浜松の街中で見つけたものは、また新たな別人を男の頭の中に送り込もうとしている。





成長を続ける街路樹

街路樹の根






成長に伴って、根もまた縁石を押しのけてまで成長を続けている

街路樹の根






これを見ると《木の楔論(くさびろん)》もまんざらでもない・・・気が・して・きた・チョットだけ・・・


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