「鳴門の渦潮」

足もとの美「鳴門の渦潮」

少し前、カーラジオのスイッチをオンにしたら、写真家の浅井愼平氏が出ていた。
「世の中は、万物が動いている。スチール写真はその一瞬を切り取る・・・」みたいな話が飛び込んできた。
「背景を演出して撮る写真にはそれなりの良さがあるが、演出しないで、被写体がカメラを意識していないときが一番良い。
カメラという機械を意識させないのは、カメラを持たないで、自分の目で捉えることだが、それでは写真にならない。
だから被写体が、撮られると意識しなくなった一瞬に、シャッターを落とすのだ。
そのとき、すべてが停まって、魔法の力が生まれる。それが好きだ」
・・・というような話だったと受け止めた。



「さあ鳴門の渦を撮るぞ」
と意気込んでいた今回の旅行だったが、ペンタックスへのフィルム装填ミスで、1本ふいにしたことを
(足もとの美「琴平町」)の中で一寸話したが、
8年前に、このラジオの話を耳にしていたら、もう少し違った写真が撮れていたのかもしれない。

シャッターを落とすタイミングだけでなく、フィルムの装填も含めて、一枚の写真を撮る心構えが出来ていなかったのだろうと、その軽率さが悔やまれてならない。

それでもその時その時の私なりの写真にはなったのかな、などと自己満足して傷付いた自分を癒している。



これは出港して間もない頃のものである。
「あそこに、発生している」・・・と船頭さんの言う方角を撮ったのであるが、画面の左前方の島影の手前に、これが渦であろうか・といえなくも無い部分があるにはある。


 ①
「鳴門の渦潮」



しかし私には、これが渦潮とはまだ断言できない一枚だ。

毎日潮とのやり取りをしている船頭という職業柄、私などが感じないものを感じ取る五感が発達しているのであろう・と思うしかなかった。



「鳴門の渦潮」



橋の左下の中央部に白波がまいているように見える部分が渦であろうけど、この程度のものが、あの有名な鳴門の渦潮なのか・という疑念を抱きながら、ただひたすらに水面を見つめていた。



「鳴門の渦潮」


なぜか急に血が騒ぎ出した。


 ④
「鳴門の渦潮」



「渦だ」・・・と叫びたくなる衝動を抑えて、さらに目を凝らす。



「鳴門の渦潮」



 この1枚をゲットする頃には、血が騒ぐ以上に、激しく水面下で交錯している潮流が、渦潮が発生する潮時だぞと予報してくれているように感じていた。



「鳴門の渦潮」



ここまでくると、はっきりと渦潮を認識出来て、興奮度は上がる一方である。


 ⑦
「鳴門の渦潮」



渦らしい渦がやっとゲットできた喜びも、この後2枚でフィルムはエンド。


ますます激しく、その姿を現す渦潮。
水深が深いからであろう濃いモスグリーンの水面に白波が踊り、渦の周囲に微かに見えるエメラルドグリーンは、竜宮城への入り口を示唆しているかのような魔力を感じる。
そこに吸い込まれそうな自分と、潮騒に負けないほど興奮している自分がいた。
船上ですばやくフィルムを入れ替えると同時に、このために持って来た広角レンズに素早く替えて、夢中でシャッターを切り続けた。

帰港する船上では、フィルムが終わっているのも気付かないで、遠のく渦と白波をただぼんやりと見ていた。

港に上がってフィルム交換の巻き戻しをした。
そして裏蓋を開けた。
その瞬間、私は奈落の底に落とされた。

ひとコマも進んでいないフィルムの端が、私をあざ笑うように顔をだしていたのであった。


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